徒然なるままに
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 「おおきに」の罠
れはあまりに有名で、今更ながらここに書く事でも無いとは思うのですが、品揃えという意味で書いておきましょう。
京都弁は物腰が柔らかく、聞く者を不快にさせません。それには理由があって、実は「ノー」という断りの言葉が無いのです。
それでは、どうやって断るのでしょう。実はそんな時、便利な言葉があるのです。それが「おおきに」です。
もともと「おおきに」は、「おおきにありがとう(たいへんありがとうございます)」の略なのですが、どうして、この感謝の言葉が断りになるのでしょうか。

例えば、はじめて横に座った舞妓に、「今度、飯でも食いに行こや」と誘ってみます。
すると大抵、「おおきに、ありがとさんどす」と答えます。
普通なら、感謝されれば「OK」の意味ですが、京都ではこのケースは「NO」となります。
それなら何で「おおきに」なんて気を持たせる事を言うんだ!? と思われる方も多いと思いますが、それではまだまだ修行が足りませんね。
実は、ここで言う「おおきに」は、誘ってくれた事に対しての感謝で、行く行かないの返事ではないのです。肝心の返事の部分は沈黙して結果を出さず、暗に「NO」と答えている訳ですね。
OKの場合なら、「おおきに、ありがとさんどす」の次に「ほしたら何時がよろしおすか?」と具体的な内容が続きます。

NOと言わない京都人と意思疎通するには、ちょっとした鍛錬が必要なのです。


 
 ○○御旦那様
をどりや温習会が近づいてくると、芸・舞妓は贔屓筋にプログラムを配ります。
小さめに折り込まれたプログラムには薄い熨斗紙が巻いてあり、宛名が筆書きされています。
それぞれの個性的な墨付きを見るに、芸・舞妓の直筆だと思われますが、爆笑を誘う字体も少なくありません。
宛名には「○○(ご贔屓さんの名前)御旦那様」と書かれています。
何だか凄いですね、正式な日本語では無い様な気もしますが、御・旦那・様と3段階に持ち上げられれば、意味不明でも悪い気はしません。
悪い気はしないのですが、プログラムと一緒に何気にくっ付いてくる、チケットさえ無ければ、もっといいんですがねぇ……

御旦那様に似た引用で、芸・舞妓が、お姉さんの芸・舞妓を名前で呼ぶときは、○○さん姐さんと言います。

祇園では、摩訶不思議な日本語が使われているのです。


 
 都をどりのパンフレット
をどりのパンフレットは、確か、5〜600円だったと思いますが、花街ファンにとっては実に有益な情報が詰まっています。
勿論、をどりの出典や背景、説明が載っているのですが、その素養が全く無い私にとっては、何が何やらさっぱりわからん? の世界です。
嬉しいのは、芸・舞妓の顔写真と名前が載っている事です。特に名前はローマ字表記があるのも嬉しいですね。中には、「おいおい、これで何でこう読むの?」とツッコミたくなる名前もあるからです。
パンフレットは、全員の芸・舞妓を網羅している訳ではないのですが、現役主要メンバーはおさえられます。
この顔写真、1月の始業式の際に、毎年撮影するらしいのですが、年ごとに雰囲気が違って面白いのです。
強面に写っている年、優しく写っている年、おデブに写っている年など様々ですから、毎年、違う人が撮影しているのかと思いきや、同じ人なのだそうです。
特に舞妓の場合は、「この1年で君に何があったの?」と言いたくなる程、全くの別人になっている妓もいますから、前年のパンフレットと照らし合わせながら見ると、興味深さも増すというものです。

 
 パンフレットの謎・その1
をどりのパンフレットには、芸・舞妓の顔写真が載っている事は書きました。
写真の掲載順は、大きい順(見世出しした順)と聞いているのですが、写真を見る限り、オイオイと突っ込まずにはいられません。
何故なら、大きい人のあたりは、どう見ても年齢順とは思えないふしがあるからです。
勿論、見世出し順が年齢順とは限りませんが、大きく違う事はないはずです。
基本的に写真は毎年撮影し直しているはず、たとえ2〜3年、撮影をすっぽかしたとしても、こうまで(大袈裟に言うと親子ほど見てくれ)は違わないはずです。
スゴク怪しい…… 白塗りのせいだろうか? それとも、井上流の名取りなどの関係で、途中で順位が変わってしまうのだろうか?
ずっと疑問に思っていたのですが、ある日、この疑問は解けました。とある舞妓にその旨を打ち明けると、大笑いしながら教えてくれました。
一部の大きいお姐さんの写真は、もう長い間、昔のものを使いまわしているのだそうです。
う〜ん、なーる程! だから、見てくれの逆転現象が起こる訳かぁ!
聞いてみれば簡単なオチでしたが、長い間の気がかりが解けてとても嬉しかったです。

そうそう、パンフレットで思い出しましたが、末巻には「お茶屋一覧」なるリストが掲載されています。
勿論、電話番号も記載されているのですが、市外局番はおろか、局番すら書かれていません(注:実は局番は別に明記してあります)。4桁の番号のみです。
市外局番や局番は暗黙の了解という事なのでしょうが、これは「電話するな」と言っている事と同じですね。まさしく他意は無いと思います。


 
 パンフレットの謎・その2
をどりのパンフレットの写真の並びには、もう一つの謎があります。
顔写真の紹介は、芸妓と舞妓が別々のコーナーで紹介されているのですが、舞妓が襟替えして芸妓になれば、舞妓のコーナーから芸妓のコーナーの末席へ移動する訳です。
つまり、移動後の順番は襟替えした順になるのです。
そこで問題発生です。必ずしも見世出し順に襟替えする訳ではありませんから、移動した時点で、見世出し順というルールが崩れてしまいます。
ひょっとしたら、襟替えした時点で順位が再定義されるのでは? と考えていたのですが、どうやらそれは間違いの様です。
実は、その次の年には、ちゃんと見世出し順に改められています。
つまり、芸妓であろうと舞妓であろうと、その身分には関係無く、見世出しした順番で序列が決まるというルールは不変な訳ですね。
ですから、早くに襟替えを済ませた芸妓は、先輩であれば舞妓にも頭を下げるという逆転現象が起こります。

パンフレットネタをもう一つ、パンフレットの末巻に「お茶屋一覧」が掲載されている事は書きましたが、以前は「屋形一覧」も掲載されていました。
しかし、ある年を境に無くなってしまったそうです。
舞妓と連絡を取りたくて屋形に電話する輩が、トラブルを起こしたからだそうです。
なんと無粋な話でしょう。舞妓と会いたいのであれば、お茶屋へ呼ぶのがルールです。


 
 パンフレットの謎・その3
ンフレットに掲載された大きいお姐さん方の写真は、もう長い間使いまわされている事は書きました。
が、なんと、今年(平成14年)のパンフでは一部のお姐さんの写真が更新されているという事態が発生しています。
昔の写真は、それから現在を推測するのをはばかる程だったのですが、新しくなった写真はかなりイケてる心象を受けました。
絶対に、今の写真の方が良いと思う私です。

そこで謎なのですが、何故、大きいお姐さんは昔の写真を使いまわすのでしょうか? そして、何故、今回一部のお姐さんだけの写真が更新されたのでしょうか?

それを紐解くには、幾つかの条件を把握する必要がある様です。
まず、パンフの芸妓の写真は必ず黒紋付の正装姿であるという事、そして、この写真は正月の始業式に撮影されるという事です。

そこで、ハタと気が付きます。
芸妓が始業式に臨む際、必ずしも黒紋付姿では無い人もいるという事実です。
若手芸妓は必ず黒紋付のお引きずり姿での出席が義務付けられますが、ある程度の大きいお姐さんはお引きずり姿が免除されるのです。
どのタイミングから免除されるのかは明確なルールが無い様ですが、噂では40歳ぐらいかららしいです(注:あくまで噂)。

ここで、謎が解けますね。
黒紋付を免除されてからは、正装姿で始業式に臨まないので写真の更新ができない訳です。
今回、更新されたお姐さん方は、きっと始業式へ正装姿で臨むべき晴れがましい事でもおありだったのでしょう(等と、推測しています)。
事実、更新された写真からは、凛として自信に満ちた表情が伺えます。


 
 お姉さんを探せゲーム
妓が見世出しする際には、引いてくれるお姉さんがいます。
花街にいる限りは血縁より濃い姉妹として、どちらかが死ぬまでそのお付き合いは続きます。
自分の名前を決める際に、お姉さんの名前から一文字をもらう場合が多いので、姉妹関係は想像がつきます。
名前に決まり事のある屋形もあるので、名前を聞いただけで屋形がわかる場合もあります。

冷静に考えるに、舞妓に「屋形はどこや」と聞く事はあっても、「お姉さん誰や」と聞く事がない様な気がします。そのせいか、芸・舞妓の姉妹関係には暗い私です。
ですから、都をどりのパンフレットを開いて、姉妹関係を模索するのは、結構、楽しい作業です。
「豆」繋がり、「照」繋がり、「子」繋がりなど、妄想は尽きません。
残念なのは、全くといっていいほど縁の無い系列がありますから、確認できないのがイマイチです。

引いてくれるお姉さんで思い出しましたが、とあるお人が言っておられました。
大きいお姐さんに引かれるのは大変なのだそうです。
ちなみに、どうして大変なのかは知りません。きっと何かがあるのでしょう。


 
 花代
代(はなだい)とは、芸・舞妓を呼んだ時に支払う料金の事です。関東では玉代(ぎょくだい)とも言われ、時間で課金されます。
単位は「本」で、昔は時間をはかるのに線香を燃やして一本が無くなるまでを一単位としたなごりです。
一本の時間は各花街で異なる様で、祇園甲部では5分が一本らしいのですが、定かではありません。勿論、一本がいくらなのかもはっきり知りません。
実は、組合で定められた金額があるらしいのですが、知る人は少ない様です。
実際のところ、花代の他にご祝儀とかもかかりますし、このご祝儀は季節やタイミングによってまちまちですから、不明度はさらに濃くなります。
勿論、明細の無い請求書からはそれを推測する事すらできないのが実情です。

基本的に祇園では無粋な話はダブーですから、この手の話題をする事もないでしょうし、おそらく、ずっと知らないままだと思います。
それで特に問題はありません。祇園では、それでいいのです。


 
 ごはんたべ
はんたべとは、お客が芸・舞妓と食事(又は遊び)に行く事を言います。
勿論、芸・舞妓を拘束している間の花代もかかります。芸・舞妓の夕方からその日一日の花代と、食事にかかる全ての料金がお客の負担となる訳です。恐ろしい話ですね。
ごはんたべは、その負担をすれば誰でもできるのかといえば、決してそうではありません。
基本的には、芸・舞妓本人、お茶屋の女将、屋形のおかあさんがOKを出さなければ実現できないのです。かなりの信頼を得ているお客で無いと無理ですね。
信頼性がちょっと、というお客の場合は、それに女将がくっ付いてくる場合もありますから、たまったものではありません。

ごはんたべの時は、そんなり(白粉をしない普通の和装)ではなく、洋装で来てもらう事も可能です。勿論、あの日本髪はおろします。
お客は仕事帰りになりがちですから、スーツ姿のオッサンと大人ぶった少女の組合せは、傍目からもかなり怪しいカップルにできあがる訳です。
行き先は、夕方からという事もあり、圧倒的に料理屋が多い様ですが、日頃から和食を見慣れているせいか洋食が喜ばれる様です。
もっとも、何処へ連れて行っても嫌な顔はしませんので、マク○ナルドへ連れて行って、その後、カラオケしたという猛者がいると聞いた事がありますが定かではありません。

ごはんたべは、贔屓にしている芸・舞妓を、たまには気がね無しでゆっくりさせてやろうという、お客の優しさで、他意はありません。


 
 舞妓さんは名探偵
ょっと前に、『舞妓さんは名探偵』というTV番組がありました。今でもたまに再放送で見かける事があります。
舞妓が主役、男衆が準主役で、祇園を舞台に起こる奇怪な事件を、主役の舞妓が解決するという内容でした。
その番組を見ていて思うのですが、あんなにコロコロと和装と洋装を繰り返していたら、「いったい一日に何べん髪結いさんへ行かなならんねん?」と突っ込んでしまいたくなります。
芸妓は鬘ですが、舞妓は地毛です。あの設定は100%ありえません。
もし仮に、あのスパンで洋髪と日本髪を繰り返していたら、絶対に頭のてっぺんが○○ますね。

日本髪は思いのほか髪にダメージを与えるのだそうで、結い上げるというよりは引っ張る感じになり、どうしても抜け毛が多くなるそうです。
大きな声では言えませんが、♪ひとつ、舞妓にゃ○○がある…… という歌もあるぐらいです。
それを嫌って、頭のてっぺん部分を短くしてしまう妓もいるそうですが、髪をほどくと恐ろしい髪形になりそうで想像すらできませんね。

髪の少ない私には、舞妓の○○には親近感のわくところではあるのですが、基本的には、ふれてはいけない領域です。
知らん顔をしてあげましょう。いけずネタにはもってこいですが……


 
 携帯でお話できない芸・舞妓
近は携帯電話を持ち歩かない人の方が少ないのではないでしょうか。
かく言う私もそうで、すっかり生活必需品になっています。
そんなですから、大切な電話がかかってくる事が分かっている時などは、つい電波の状況が気になってしまいます。

色々な方々から聞くに、お茶屋のホームバーは電波の届きにくい場合が多い様です。
お茶屋自体は質素な京町屋なのですが、意外や意外、結露防止や防音対策が施されたりしていて、頑なに電波の進入を防ぐ様です。
窓際でアンテナ1本といったところでしょうか。
そんなですから、電話がかかってくると、少しでも電波の状態が良くなる様、アンテナを伸ばします。それでもギリギリ話ができるぐらいです。

ある晩、とある舞妓とおしゃべりしていると、携帯が鳴りました。
すかさずアンテナを伸ばして出てみると、偶々その舞妓も知っている御仁からで、替わってくれという事になりました。
舞妓に携帯を渡すと、アンテナをたたんで耳にあて一言、「あ、切れてしもた……」。
そりゃそうです。電波の状態が悪いのですから、アンテナをたためば切れてしまいます。

実は舞妓の日本髪、耳を覆う様に結われている為、アンテナをたたまなければ邪魔になって電話を耳につけれないんですね。
お茶屋では、携帯でお話できない、芸・舞妓の話でした。


 
 四条通の見えない横断歩道
中のメインストリートである四条通の花見小路通から東大路通までの間には横断歩道がありません。
花見小路通と東大路通の間にある祇園ホテル横の通り(この通りの名前を知らない)から四条通を横断したい場合は、とても困ってしまいます。
この通りから四条通を横断しようとすると、横断歩道のある花見小路通まで迂回しなければならないのです。

結構、距離があるんですよね、迂回すると。
特に、ヘベレケに酔っ払っていると、一歩でも多く歩きたくないし、気分も大きくなってしまいます。
で、どうなるのかというと、渡りたくなるんですね、勿論、横断歩道の無いところを。

しかし、冷静に考えると無謀なお話です。
何車線もあり、深夜といえども交通量がかなりある広い四条通を横断するのは自殺行為です。

ところが、ある条件が揃えば、その無謀な行為も簡単にこなせてしまいます。
実は、舞妓を連れていれば、四条通に一歩足を踏み入れただけで、車が止まるのです。
あの、意地悪なタクシーでさえ急停車してくれるから不思議です。

何故かというと、舞妓をはねたら、めっちゃくちゃお高くつく事を皆さんご存知だからです。
お客のオッサンをはねても、お茶屋遊びをしている様な旦那衆ですから、一歩間違えたら大問題になるかも知れません。
ですから、タクシーの運転手は、その通りの前には、見えない横断歩道があるのを知っているのです。

舞妓のまわりは治外法権、ひょっとしたら、四条河原町の交差点を斜めにだって渡る事ができるかもしれません。


 
 
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